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20年 あなたと歩いた時間

第7章 命のはじまりと終わり

「右のモニター、見えますか?」

ようやく医師の声がして頭を動かすと、
そこには砂嵐のような画面の中に、
何かが映っていた。
私のお腹には、小さな小さな赤ちゃんがいた。
まるい袋の中で、一生懸命小さな心臓を
動かしていた。
涙が溢れた。ここに、こんなに小さな命が
ある…。

「じゃあ、着替えたらこちらに来て下さいね」

深呼吸をして、ドアをあけると
四十代くらいの女医さんと流星がいた。

「医学生なんですってね、彼」
「…はい」
「あとは、あなたの意志だけよ」
「私の…?」
「もう少し時間はあるから、考えてね」

そうして、私は決断を下さないまま、
流星の部屋に帰ってきた。
帰りの電車は二人とも無言だった。
私はただ、トクトクと動く心臓が
頭から離れなかった。

「ココア。飲む?」
「うん…」

かたん、とテーブルにマグカップを
置く音以外は、時計の秒針が動く音が
聞こえるだけ。流星は窓の外を見ている。

「…のぞみ」
「ん…?」

流星はベッドに腰掛ける私の目の前に
座った。そして私の手をしっかり握った。

「あのさ。…産んでくれ」
「だって、流星。学校は」
「おれは絶対医者になる。のぞみと、子どもを幸せにする。ちゃんと考えた。今だけ、何とか親に面倒見てもらおう。国家試験が終わったら、おれが全部それまでの分、返して、のぞみと子どもを養うから。絶対に、この子に会いたいんだ…」

流星は泣いていた。
私のスカートに、流星の涙が染みを作った。

「…のぞみ。結婚しよう」

二人で泣いた。
泣きながら何度も何度もうなずいた。
それが、その時の私にできる精一杯の
返事だった。

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