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20年 あなたと歩いた時間

第7章 命のはじまりと終わり

あの日起こったことは、
断片的にしか覚えていない。
全てが、崩れた。
爆発したのかと思った。
もう、終わりだと思った。
縦にも横にも揺れて、眠ったまま
ジェットコースターに乗せられたのかと
思った。
大地が揺れ、裂けた。
夜が明け始めた街を、父が止めるのも聞かず
家を飛び出し、何も考えずに流星の家に
走った。流星の家に近づくにつれ、
まわりは見たことのない景色に
変わっていった。
重なるがれきの中から、子どもとも大人とも
区別のつかない手に、足首を掴まれた。
それを蹴って、私は流星のもとに急いだ。
助けて、助けて…ここです、この下です…
幾人もの叫び声が、夜明けの街にこだました。
ここにあったのに…。
昨日も来たのに…。
そこにあるはずの、流星の家がなかった。
何度も来たことのある、
見慣れた家がなかった。
かわりにあるのは、瓦や木材や崩れた壁と、
その隙間から見えるのは流星の靴や、
いつも読んでいた本だった。

「流星…流星…」

(絶対に、この子に会いたいんだ)

(…のぞみ。結婚しよう)

流星。
いま、何を思ってる?
今日、何したい?
どこに行く?
明日は?

そして、私の中に存在していた不安という
パズルのピースが、すべておさまるように、
奇妙なその正体を私は知る。
あなたが、先に大人になるたびに感じていた
不安。それが、何だったかを知る。
それが、今、目の前に現れようとしている。

「…のぞみ!」

私の名前を呼ぶ声に振り返りながら、
それは流星ではないことを知っている。
間違えるわけがない。
約束してくれた、大切な流星の声を。

「かな…要!ここに、ここに、流星…流星が…
流星が…見て、足…流星の、足が」
「余震が来る。向こうで火事も起こってる。
風向きが変わったら、ここも危ないから!」

要に引っ張られながら、
私は流星のそばを 離れた。
そのとき再び揺れを感じて、
同時にかろうじて厚みのあった家が、
ぺしゃんと低くなり、
流星の足が見えなくなった。

待って、要。流星、お父さんなの。
赤ちゃんの、お父さんなの。




いま死ぬわけには、いかないの!!!!





あなたに、会いたい。
私は要の手を離し、流星のそばに戻って、
がれきの山をひとつずつ押しのけながら、
ただそれだけを思っていた。

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