複雑な恋のゆくえ【完】
第1章 手をさしのべる/さしのべない
「馬鹿みたい。無様だね」
ばしゃばしゃと、外の水道で顔を洗っていた君――春は、顔を上げ、私の顔を見た途端、顔を赤くした。
羞恥からか。それとも。……
「なんでここにいるの」
「いっしょに帰ろうと思って」
そう言うと、人一倍プライドの高い春は「うざい」と私を突き放す言葉を発した。
「お前、どこから見てたんだよ」
「何を」
……わかってんだろ……。
そう言った春の声は細い。……意地悪しすぎた。
「別に。たまたま通りかかっただけよ」
まあ、全部見たってことだよ。
「うざ。お前最低。そういうの見て見ぬふりすんのが基本なんだよ」
「そんな基本知らないし」
――春が先輩に蹴られてた。
そんなとこ、見てない。知らない。
って、春は言ってほしいのだろうか。