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言葉で聞かせて

第8章 猫に恋敵

ぼんやりしながらも何となく漂う空気は幸せに満ちていて、穏やか
ゆっくりと流れる時間に三人とも心安らいでいた


「敦史、そろそろ行くよ」
「あぁ」
「それでは千秋さん、行ってきます」
「行ってくる」


スーツを着て
髪型を整えて
僕達は革靴を履きながら玄関で振り返った

千秋さんは僕達のカバンを持ちながらにこにこしている


まるで新妻


ふふ、と笑って千秋さんが差し出したカバンを受け取った

そしてドアを開けようとすると、千秋さんが何故か僕達の服の裾を掴む


「?」
「どうした?」


僕達が振り向くと


「!!」
「!!」


唇に柔らかい感触

僕、敦史、と順番に触れるだけのキスをした千秋さんは恥ずかしそうに笑ってから僕達の背中を押して家から出した

ドアと鍵が閉まる音がして、ようやく我に返る


今までもシてくれたことはあるんだけど、今日のあの顔


「やべぇ……」
「ほんと、不意打ち……」


揃って口元を覆った僕達の顔は真っ赤に染まっている


あんな可愛らしい照れ笑い、ズルイよ


「すーーーはーー……よし、落ち着いた。行こう」
「あーーくそ。もう家帰りてぇよ」
「言わないの」

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