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missing☆ring【完】

第5章 1年前。

今度は陸の車の助手席に乗る。
さっきは気付かなかったけど「陸、メガネ男子なんだね」と陸に視線を向けた。



「あぁ、運転の時だけね」と黒ぶちのメガネをかけた。


「目、悪かったんだ」


「ん、それほどじゃないけどね」



そう言ってバックミラーで後ろを確認してから、右側にウィンカーを出した。
陸の車が走り出す。



卒業してからの陸を何も知らない。
私の卒業してからの思い出には陸が居ない。
陸の思い出にも私が居ない。
もう違う道を歩き出している。



良く知っていた陸は、良く知らない陸を時々覗かせて、私はその陸に戸惑ってしまう。



切れ長の瞳を優しく細めて優しく笑う陸。
その隙間に深く悲しい瞳が私を見つめる。
薄い唇を大きく開けて笑う陸。
その口角をたまに上げうすく笑う。



少し幼さが残っていた陸は居ない。
今、私の隣に居るのは、私が知らない時間を生きて、私が知らない人と出逢って、確実に男の人になった陸だった。








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