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パラサイト・トランス

第2章 始まりは海水浴

 近所にある海には、非力な僕の足でも、自宅から十分もかからずに到着する。
 真夏の太陽が、舗装された道路をフライパンの上のように熱くし、気温はどんどん上がる。だらだら流れる汗は滝にも負けないだろう。それでも僕は、海に向かう足を止めない。
 僕は海が好きだ。
 でも僕が海に行くのは、何も波打ち際でキャイキャイはしゃいだり砂の上でビーチバレーをしたり綺麗なお姉さんの水着を見てニヤニヤする為じゃない。白い砂浜には目もくれず、僕はその脇にある岩場へ向かった。
 潮が引くと、岩の窪みに生き物が取り残されることがある。そう、潮溜まり――タイドプール。
 さっきも言ったが、僕は海が好きだ。いや、もっと言えば、海の生き物が好きだ。
 小学五年生の僕は、夏休みの自由研究にいつもここを利用してきた。一昨年はアメフラシの体液でハンカチを染めたものだ。…お陰で、僕からハンカチを借りる者は誰もいなくなった。
「…ええい、ぼっちで何が悪い!」
僕は友達がいない。親もいない。家族は科学者兼医者のお姉さんだけ。信頼できる人を、お姉さん以外知らない。
 …いかん、涙が出てきた。

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