
泣いて、笑って、恋をした。
第2章 act1
力を入れて彼に掴まれている腕を引いてもびくともしない。
カチャカチャとまた小さく音が聞こえ、ヒヤッと冷たい感覚と同時にズシっと私の左腕が重くなる。
何?
左腕に視線を向けるとピカピカ光るシルバーの時計。
「餞別だ」
彼の言葉に視線が上がる。
初めて近くで見る彼は薄茶色の瞳に
白い肌
人をあそこまで殴るような、鬼のような顔じゃなく鼻筋が通っている綺麗な顔だった。
その顔を一瞬切ないように歪めて
「そんなんじゃ死なねーぞ」
とまだ生々しい傷がある私の左手首に視線を向けた。
