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第1章 出会い

それは深々と雪が降る日のことでした。
私は、ご主人に与えられた仕事をこなします。
朝はとても冷えるので暖炉に薪をくべ、部屋を暖めます。
外はキンとした寒さでしたが、眩しいくらいの白はとてもきれいでした。
衣食住を与えられ、人間らしい生活ができ、確かにあの時の私も幸せでした。

その日の午後からは、お客様がいらっしゃいました。
ご主人の同級生だそうで、その方は私と同じ頃のご子息様をお連れでした。
永く年の近い方にお会いしていなかった私は、照れくさかったです。
その方…名前をユキ様と仰います。
ユキ様は、人懐こいようで、私にも話しかけて下さいました。
本来ならば私の様な使用人には、お話など出来るお相手ではないのですが、年も近くユキ様のお人柄もあり、すぐに打ち解けることができました。

「キミは本とか読むの?」

確かそれが最初の言葉だったと思います。
恥ずかしながら、読書など生まれてからしたことはありませんでした。
字すらまともに読めません。

「じゃあ貸してあげる。わからない字があったら聞いてよ」

初めは簡単な児童書ね。
嫌みなく笑うそのお顔に見とれていました。
そこから、ユキ様が来られる度に文字を習い、様々な本を貸して頂けるようになりました。

今までもじゅうぶんに幸せでしたが、ユキ様と出会い、読書と出会い、これほどの幸福がまだ残っていたのかと思うほどでした。
すっかり本を読むトリコになった私は、ユキ様の訪問される日が楽しみでならなかったのです。

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