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第4章 別つ

どれくらい経ったのでしょう。
あのあと私は、ユキ様に頂いた本を読めずにいました。
何故だか、読んでしまったら終わってしまう気がしたのです。
何が、と問われても私にはわかりません。
ただ、1つ確実になってしまったことは、もう2度とユキ様に文字を教えて頂くことは出来なくなってしまったことです。
それを理解したとき、自然と涙が頬を伝いました。
それが何の涙なのか。よくはわかりません。
あの日以来の胸の奥のポカポカは消えてはいません。
消えてはいませんが、締め付けられるのです。
何度も、何度も。
ユキ様を思うと、キューっと心が鳴るのです。
私は恋をしていたのでしょう。
そう気付けたのは、辛いことでしかありませんでした。
何故ならば、伝えるべき相手がいないのです。
否定もされず、肯定もされず、私の胸の奥のポカポカは、消えることがありません。
頂いた本を読めばわかるのでしょうか。
この締め付けはなくなるのでしょうか。
私は消したいのでしょうか。
今はただ、この本を抱き締めることしか出来ないのです。

ふと、頬にチクリとしたものが触れました。
中程のページに山吹色の栞が挟まっていました。
私は何の気なしにそれを引きます。

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