テキストサイズ

エスキス アムール

第11章 デート




大野さんが
風俗嬢と一緒にいて、
周りから、
変な目で見られるのも嫌だった。


だけど、それだけじゃない。
目を背けたかった。

あの人は、
大野さんのことを
「波留」って呼んだ。

そして、
「この前はありがとう」ってそう言った。
彼女と大野さんは、
頻繁に会っているということだ。


名前で呼ぶ、綺麗な女性。
しかも、職業は社長の秘書。

風俗嬢の私なんかに
勝ち目なんてあるはずなかった。




気が付いたら涙が目からごぼれ落ちていて、


…それでも構わず走り続ける。

このまま、何処かに行ってしまいたい。
そう思ったとき、



「…っ」


それは、温かい手によって
阻まれた。




「…はるかちゃんっ
…足、はえーな…っ」


涙を拭いながら、
後ろを振り返ると、

息を切らして笑う、
大野さんがいた。




「……どうした?」


泣いている私に驚いて、
そっと、
手を伸ばして涙を拭ってくれる。


大野さんは
こうして優しくしてくれるけど、

きっと、誰にでもこうなんだ。
きっと…

さっきの人にも…。

優しい瞳を向けて、
笑うんだ。





この手を取って、
すがりつけたら。

好きと言えたら、



それだけ私は
幸せだろうか。






ストーリーメニュー

TOPTOPへ