
エスキス アムール
第43章 だから言ったのに。
「……で?」
俺は今、木更津がついでくれた温かい珈琲を飲みながら、目つきの悪い親友に睨まれているところである。
「えっと、ですね…ハハ」
チラリ
木更津の方を見ると、
あらやだ、みたいな感じで、口に手を抑えて俺を見て笑っている。
あの野郎。
と、言いたいところだが、
あのキスをあの場所でし始めたのは俺だ。
なんも言えねえ。
「どうりでおかしいと思ったんだよ」
「……」
「波留が選ぶにしては広すぎるマンションだし、今日も飲み会にしてはウキウキしすぎてたし、
仕事の資料まで全部忘れていくし。」
「…へへ」
「笑い事じゃねーよ。」
「…そんなにウキウキしていたんですか?波留くん」
「就業時間15分前から、時計ばっかり気にしてました」
要の言葉に嬉しそうに笑う木更津に、恥ずかしくなって顔を赤らめると、要に睨まれた。
ああ、やりづらい。
恋人と親友との間にいるのは、どうもなれない。
どういう立ち位置でいればいいのかわからなくなる。
「で?キスしてたってことはつまりどういうことなの?」
「あ、あの…
その…、木更津とは付き合ってまして…」
「木更津さんって、あの木更津さんですよね、木更津製薬の」
「あ…そうです」
木更津に聞いたのか、敬語になった要に、俺が敬語で反射的に返事をすれば、また睨まれた。
……コワイ。
そうだ。まだこいつの中では、変態ホモ野郎の段階で止まっている。
全くこの展開についていけないのはよくわかる。
だから、説明するのも渋っていたのだ。
