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エスキス アムール

第43章 だから言ったのに。





「………な、なにごと…?」




その声がとても聴き慣れた声で。
一瞬、時間が止まったようだった。


俺は目を見開いて木更津を見つめた。

木更津は、だから言ったのに
と言わんばかりに呆れた顔で笑っていたと思う。


ゆっくり、ゆっくりと、その声の方を振り向く。
そこにいる彼は、荷物を落としたまま俺の方を見て固まっていた。


それは驚いただろう。
あれだけホモではないと言っていた奴が、
今、まさに目の前で濃厚なキスを男としていたのだから。


まだ彼は状況を飲み込めていない。


俺も、状況を飲み込めていない。



木更津だけが、状況をおかしく眺めていた。
だから言ったのに。
今度は声に出してそう言って笑っている。


「さあさあ、とりあえず入りましょう。おうちへ。
波留くん、鍵開けて?」


俺の肩をポンポンと叩くと、そう促す。
キスしている場合ではなくなって、慌てて鞄の中を探った。



呆然としたままドアを開けると、木更津はその奥でまたも呆然としている彼に声をかける。



「あなたもどうぞ。高橋、要くん?」






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