
エスキス アムール
第45章 困惑と介抱
流石に下は脱がせられないけど、
外はとにかく暑くて、大野さんは汗をかいていたので、濡れたタオルで身体を拭いた。
タオルが背中に回ったとき、思わず固まる。
大野さんの背中には、うっすらとだけど赤い斑点がたくさんあったのだ。
私と付き合っているときは、赤い斑点は無かったから、生まれつきではないと思う。
何かのアレルギーにしても背中だけということはあるのだろうか。
そこら辺の知識はよくわからないけど、もう一つの知識なら、昔就いていた職業柄心当たりがある。
赤い斑点といえば、キスマークだ。
キスマークだとしたら、
最近大野さんがフラフラな理由も、こうして今疲れ切って眠っている理由も、辻褄が合わないことはない。
大野さんもしかして…
いけないいけない。
そんなことあるわけない。
あらぬ妄想をしてしまって、止まっていた手を動かした。
何考えているんだろう。
タオルを一旦置いて、大野さんが手首にしていた時計に触れる。
それは有名ブランドのものだったけど、なかなか無いデザインでとても素敵な時計だった。
寝ているときにしていては邪魔だろうと思ったから外したのだけれど、何気無く裏を見たとき、
アルファベットが刻み込まれていることに気がついた。
「…H.K…?」
Hは大野さんの名前の波留のHだとして、Kって…?
考えないようにしようと思っても、どうしてもそのイニシャルと赤い斑点がリンクしてしまう。
大野さんはまだ起きそうに無い。
上下に動く唇を見て、一生懸命呼吸をしているようで、とてもその姿が愛しく感じた。
その愛しいと思う気持ちと、赤い斑点や時計のイニシャルに対するモヤモヤがごちゃ混ぜになって思わず時計を握りしめる指に力がこもった。
「…ん…」
そうしていると、彼の声がして
その方をみるとうっすらと目が空いているように見えた。
私が持っている時計をじっと見られているような気がして、何も考えられないまま、慌ててそれを引き出しの中にいれてしまった。
