
エスキス アムール
第47章 教え込まれたカラダ
ネットに詳しく書かれているあたり、結構有名な人らしい。
木更津製薬って、確かに聞いたことがあった。
「木更津製薬、今年からニューヨーク事業所も新たに誕生させ、現在はニューヨークに…」
これで日本在住だったら私の思い過ごしだと、笑い飛ばしていたのかもしれない。
けれど、新しくできた事業所はブルックリンにも近かった。
木更津という苗字も、多いわけではない。苗字もイニシャルも同じ人が、ニューヨークのこんな近くにいるなんて、本当に思い過ごしだろうか。
まさか、そんなまさか
考えすぎだ。
あるわけない。
だって…男の人同士だ。
そういう人だっていることは知ってる。
だけど…だって…だって。
大野さんはこの間まで私と…
動揺を隠しきれなくて、呆然とした。
そして、昨日の出来事を思い出す。
そういえば、彼は絶対に近くに寄ってこようとしなかった。
優しい瞳も、冷たい指先も、あの頃と全く変わらなかったけど、彼の瞳は、まるで熱くなってなかった。
私ばかりが狂って感じて、彼はとても落ち着いていた。
日本にいた時のように、抑えきれないみたいな感情がまるでなかった。
…気がする。
何も解決しないまま、その日の夜、大野さんは夕飯を買って帰って来た。
昨日がようやく、給料日の日で、自分のお金を手にすることができたようだ。
「…明日になったら、もう出てくね。」
いつまでも迷惑かけられないし。そう付け加えると、彼は美味しそうな夕飯を広げて、これはお礼ねと、笑った。
引き止めたいけど、昨日に引き続き、そんなことを言ったら、どう思われるだろうか。
「もう、家にもどるんですか?」
「…いや、…ホテルにでも泊まろうかな」
まだ、家に戻れない状態。
どうして家から追い出されたのかはわからないけど、これは、別れたということなのだろうか。
聞きたいことはたくさんある。
どうしようかと、迷っていると、大野さんの瞳が、あの企業雑誌を見つめていることに気がついた。
