
エスキス アムール
第47章 教え込まれたカラダ
「…恋人、なんですか?」
「……時計があるのなら…まだそうかな」
少し、その意味は私にはわからなかったけど、大野さんはようやく肯定した。
ショックだ。
大好きな人に恋人が居る。
そして、その人は男性だった。
何とも言えない気持ちに襲われる。
「どうして、そんな…急に…」
「急じゃないよ、……急じゃ、ない。」
「大野さん…」
「なに?」
「わかってますか…男の…男の人ですよ…?」
喉の奥の方から絞り出すように声を発下私に、彼は目を合わせて座り直して姿勢を正すと、ゆっくりと私に聞いた。
「男だったら、何がいけない…?」
「だって…だって…!大野さんはこの間まで…っ」
何がいけないなんてない。
完全に私の嫉妬だ。
私のことが好きだったじゃないなんて、口には出せなくて口を噤むと、彼はその先を悟ったのだろう。頷いて視線を一度逸らし、また、こちらに合わせてきた。
「俺さ、はるかちゃんのこと、本当に好きだった。
日本にいたときに俺が伝えてた気持ちは全部嘘じゃないよ。
だから、久しぶりにあった時も、なんかあの時のこと思い出してさ、区切りは付けたつもりでも、やっぱり普通に接することが出来なかったんだよな。」
「…はい…」
「男の人だっていったけど、俺ははるかちゃんのこと、女性だから好きになったわけじゃなくて、はるかちゃんだから、好きになった。
それと同じで、一人の人間としてあいつのこと好きなんだ。」
一つ一つ紡ぎ出されていく告白に、頬が濡れているのに気がついたのは大分、後だった。
じっと、彼の言葉に耳を傾ける。
彼の様子は穏やかで、だけど真剣に一言一言を選んで言ってくれているようだった。
