
エスキス アムール
第47章 教え込まれたカラダ
「はるかちゃん、何か知ってるの?」
「何かって…なんですか…?」
「起き抜けに俺が木更津って言っただけでしょ?木更津なんて探せば他にもいると思うけど」
「でも、こんな偶然あるわけ…」
「木更津って名前を呼んだだけだよね。」
「だってイニシャルだって…!、ッ!」
どんどん彼に煽られて、言ってしまってからしまったと思う。
自分のミスに気がついて、はっとした私を大野さんはゆっくりとみた。
その瞳で知る。
待ってたのだ。私がボロを出すのを。
焦らして焦らして、相手が本性を表すまで待つ。
仕事での彼のやり方だと聞いた気がする。
いつもふにゃりと笑う彼からは想像もつかなかったから、まさかとそのときは一蹴したけど、本当だったようだ。
まさか、私がそんな対象になるだなんて思っても見なかった。
好きな人にそんな風に扱われるのはとてもショックなことで。
だけど、そんな信頼さえも壊してしまったのは私の行いのせいなのだと、思い直した。
「…時計、持ってるの?俺の」
「………。」
目を合わせていられなくなって、視線を落とす。
視界に、彼が左手首を握り締める右手が見えた。
