
エスキス アムール
第52章 第二の木更津
矢吹さんと呼ばれた彼は、大手家具メーカーの社長だ。
俺が木更津に快楽漬けにされていた頃、要は自分が言った一言が俺を傷つけ、体調を悪くしてしまったのではないかと申し訳なさから営業に力を入れていたそうだ。
そんな中で、たまたまバーに行った時にいたのが彼で。
日本人だったので話しかけたら、たまたま、大手家具メーカー社長だということがわかり、チャンスだと思って持ち合わせの資料で売り込んだそうだ。
そしたら、俺のデザインに興味を持ってくれて、うちの家具とひとつコラボして欲しいと連絡をくれ、わざわざ出向いてくれたという次第だ。
そんな話を急に聞かされて、緊張していた俺だったけど、会ってみたら歳も近いし同じ大学で、あっという間に仲良くなった。
「大野くん、このあと食事いかない?」
「おー、いいよ
あ、ちょっと待って、電話…」
矢吹とはまだいろいろなことを話してみたい。
食事となると、木更津に今日は家で食べないと連絡を入れておかないと。
メールにしようかとも思ったけど、なんとなく話したくなって電話をするために外に出た。
「じっくり、じっくり。味わせてもらうよ」
矢吹がそんなことを呟いているとも知らずに。
