
エスキス アムール
第53章 矢吹は良いやつ
部屋の前に着いて、インターホンを押す。
扉が開いて出てきたのは、それはそれは不機嫌な顔をした光平くんだった。
「…なにをしているの?」
「なにって。波留くん潰れちゃったからさあ。」
「触るな。名前を呼ぶな。一切会うな!」
冷たい冷たい声を投げかけられて、すっかり嫌われてしまったなと苦笑する。
無理矢理僕から波留くんを引き剥がすと、自分の腕の中に収めた。
「んー…こーへい…こーへい…」
光平くんの腕の中におさまった波留くんは首筋に摺り付いて甘えるような甘い声を出した。
羨ましいなあ。
もう少し早く会っていたら、きっと僕に来てくれたのに。
あっという間に扉は閉められて。
スタートは僕の方が遅れちゃったけど。
でも、負けないよ。
これからだ。
きっとこれからお仕置きかな。
妬けるなあ。
ちょっとずつ僕の方を向かせてやる。
光平くん、今のうちだよ。
波留くんを自分のものにしておけるのは。
光平くんに甘えていたように、僕に甘えてくる彼を想像して、ほくそ笑んだ。
