
エスキス アムール
第54章 仲直りしよう
「何言ってるんだよ。
まだ一緒にいる。」
「今日も仕事でしょ?いいから。」
震えは止まったものの、矢吹の顔は青白かった。
母親は目が覚めるかわからない状況で、矢吹はこんな顔をしているのに、放っておけるわけがない。
「いいから。腹減っただろ?なんか買ってくるよ」
「…ごめんね。波留くん…」
「いいから」
矢吹はすっかり弱ってしまっていた。
大事な母親が、死んでしまうかもしれないという局面にいるのだ。
当たり前だけど。
あまりの憔悴っぷりに心配になる。
あれで、もし矢吹のお母さんがなくなってしまったら…、
矢吹は他に支えがいるのだろうか。
見たところ、兄弟もいるわけじゃなさそうだし。
父親もいないみたいだし。
一通り食べ物と飲み物を買って、矢吹のもとに行くと、先ほどと変わりなく俯いたまま、母親の近くに座っていた。
「ん。これ、買ってきたから」
「…ありがとう…でも…いいよ…」
「ダメだよ。ちゃんと食べて体力つけとかないと。
お母さん起きたときにお前がげっそりしてたら心配になるだろ?」
「……、ありがとう……」
矢吹はちらりとお母さんの方をみて、少しだけ笑った。
