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エスキス アムール

第56章 彼の大事なもの

【矢吹side】







あれから、一ヶ月近くが経とうとしている。





僕の母はあっという間に天国に旅立ってしまった。



持ち直したんじゃないのか。
峠は越えたはずだろう。
どうして。


容態だって安定していたはずなのに。




そんなことをぐるぐると考えて呆然としながら、気がついたときには波留くんに電話をかけていた。


波留くんはすぐに来てくれて。
放心状態の僕の代わりに、病院の手続きから、葬式まで手伝ってくれた。



「…あ…おはよ。
…よく、眠れた…?」



それからというもの、僕の家にずっといる。
憔悴しきっている僕のことが心配なのだろう。


自ら、命を絶ってしまうのではないかと思っているのかもしれない。


僕一人だったら、確かにそうだったかもしれないけど、波留くんがいてくれるおかげで、僕の心は随分と落ち着いていた。





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