
エスキス アムール
第56章 彼の大事なもの
不眠症は良くないからと、眠れないと震える僕を抱きしめて寝てくれている。
朝はそのぬくもりで起きて、彼の香りを感じて、幸せな気持ちになる。
そして僕が目覚めてことがわかると、良く眠れたかと、いつも聞いてくれるのだ。
「うん…眠れた…。
ありがとう…。」
「よし!じゃあ…飯食べようか」
彼だって、家に帰りたいに決まっている。
最初の頃は、僕も自分のことで精一杯で気がつかなかったけど、波留くんがあの家から飛び出して、ずっと僕の家にいるのはおかしいのだ。
光平くんになんて言ってきたのかわからないけど、彼が許すはずがない。
一刻も早く帰って、光平くんと過ごしたいはずなのに、波留くんは微塵も僕の前ではそんな素振りは見せなかった。
暗い一面を見せないようにか、いつも明るく振舞っている。
