
エスキス アムール
第56章 彼の大事なもの
久しぶりに自分の携帯の電源を入れてみると、光平くんから電話が何件かかかってきていた。
彼は今どうしているのだろう。
悪いことをしているという自覚はある。
けれど、波留くんを渡すのは嫌だ。
僕は、波留くんのおかげで大分立ち直っている。
思い立って死ぬようなことはまずないだろう。
けれど、時折弱そうな部分を見せて、彼をそばから離さないのは僕の性格の悪さだ。
「……波留くん…?」
今日は会社が休みで、朝食をとってしばらくしてリビングに向かうと波留くんは携帯を握り締めたままソファで寝ていた。
上下に動くその唇に、誘われて、指が動く。
す、と指を滑らせると、波留くんはくすぐったそうにもぞもぞと動いた。
…可愛い。
彼は、どんな声で鳴くのだろう。
抱いたとき、どんな顔を見せるのだろう。
想像すると堪らなくなって、その唇に吸いつきたいという欲求が止まらなくなった。
