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エスキス アムール

第56章 彼の大事なもの








その証拠に、僕がお風呂から上がって彼のいるリビングをそっと覗いた時だった。



彼はずっと俯いたまま、何もついていない左手首をギュッと握り締め、見つめていた。


ああ、こんな時にも光平くんのことを思い出しているんだと思ったら、ズキズキと心が傷んだ。



最近は、僕がいない時には必ず携帯を見ている。
そんな時に声をかけると、その携帯を咄嗟に隠して、いつものように笑顔を僕に向ける。


一度、どうしても気になって、何を見ていたのか咄嗟に隠したその携帯のディスプレイを隙を見て覗いてみた。



電源を付けて出てきた画面は、電話帳の光平くんの画面だった。



左手首に時計はない。
連絡できる状態ではあるのに、画面を見つめるだけ。


二人はきっと今いい関係ではないのだろう。
もしかしたら、僕が入る隙間が出来たのかもしれない。


僕は、助けてもらって、親切にしてもらって。
それなのに、そんな邪なことばかりを考えていた。





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