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エスキス アムール

第56章 彼の大事なもの






「…あ…矢吹…いたの…」

「うん…ぐっすりだったね」



出来るだけすべてを光平くんに近づけて、いつかは僕のことしか考えられないようにしてやる。



僕が彼に抱きつくと、波留くんはあやすようにポンポンと僕の背中を叩いた。


違う。
僕が求めているのはそんなんじゃない。

光平くんには、そんなことしないでしょ?


もっと甘えてよ。


頚筋に顔をうずめて、彼の甘い香りを感じ、そこに舌を這わせた。

その感触に一瞬彼はびくりと反応して、体を捩る。



「おい、矢吹、やめろ。」

「いいから、波留くん…」

「…んっや、ぶき…っやめろ…
やめろ…っ離せ…、」

「波留くん…お願い…」

「…ぁ…はなせ…っはなせ、離せよ!!」

「……っ」




出来るだけ光平くんに近づけたはずだった。
彼は確かに感じていたし、このままもつれ込めると思ったのに。


波留くんは顔を歪ませて、僕を力尽くで引き離し突き飛ばした。


予想外のできごとに呆気にとられて呆然とする。




「悪い……やりすぎた…」


伸ばしてくれたその手を取らずに、自分で起き上がって部屋を出た。







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