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エスキス アムール

第60章 全てを捨てたって






「……は……?」




こいつ、馬鹿なんじゃないの?
僕は呆れ返ってものもいえなかった。




「聞こえなかった?いいよ、潰してもって言ったんだけど。」


「……僕が言った意味、わかってる?
簡単に社員見捨てるそんな最低なやつなのかよ!!
すぐに捨てられるほどの会社なのかよ!」

「社員の再就職先は責任を持つよ。
今後の生活も。全て。
それで、波留くんを側に置いておけるのなら。」



しれっと、そんなことをいう彼にまた、より腹が立つ。
そんなの無理に決まってる。
あり得ない。

いくらまだ成長途中だからって、中小企業と訳が違うんだ。
中小企業ほどの人数だって、再就職先を保障するなんてできるはずない。


「……そんなの不可能だ。」

「出来るか出来ないかじゃない。
やるんだよ。潰されたらやるしかない。命を犠牲にしたって何をしたって。
それが僕が出来る最大の償いかな。」



無理なことは明白なのに。
何でそこまでしてーー。

会社なんて潰されたら今まで積み上げてきたことが無駄になる。

そんなこと……、僕にはできない。




「……だけど、矢吹。
覚悟はあるんだろうな。」

「……なんの、覚悟」

「矢吹も社長だからわかると思うけど。
僕から波留くんを奪うだけのために、関係のない人の幸せまで奪ってどん底に突き落とす、覚悟は出来てるんだろうなっていってるんだよ。」



僕のことを睨み付ける光平くんの瞳は、僕の心臓を今にも一突きにしてしまいそうなほど、鋭く恐ろしかった。





















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