
エスキス アムール
第60章 全てを捨てたって
けれど、それでも一度だけ、休みの日に二人で会って何をしているのか聞いたことがあった。
『ねえ、昨日もあったの?光平くんと』
『う、うん…そうだよ』
『そんなに二人で会って、何してるの?いつも。』
『……っ』
『…斎藤?』
今思えばおかしかった。
あの頃の僕は、そういうことに全くもって鈍感だったのだ。
なにしているのと聞く僕の質問に、顔を真っ赤にする斎藤に、なんで顔赤いんだという疑問しか浮かばなくて。
『べ、別に…っあの…企業の話とかだよ…勉強にも、なるから…本当に、それだけ!本当だよ!!』
『…別に疑ってもないけど…』
必死に弁解する斎藤に、僕が何を疑っていると思っているのだろうと、首をかしげたのを覚えている。
今となって、斎藤との思い出は良いものではなくなってしまったから、思い出そうとすることもなかったけど、
思い返すと、
そうだ。
斎藤はきっと光平くんのことが好きで、
二人はもしかしたらそういう関係にあったのかもしれない。
