
エスキス アムール
第60章 全てを捨てたって
『……っうるさいな!
光平くん光平くんって!!
ずっと言ってるのはお前だろ?!
どっちがだよ!!
男同士で気持ち悪い!ベタベタしてんじゃねーよ!
この間も光平くんに頭撫でられたりして…っ
もしかして、あいつ、お前のこと好きなんじゃねーの?
うわー、ないわー』
『…違う……』
『何が違うわけ?あいつずっとお前と一緒にいるし、この間だって…
『違う!!違う!違う違う違う違う!!』
斎藤は顔を真っ赤にして、叫んだ。
その勢いに驚いて、そのときにやっと我に返って口を噤んだ。
『違う!!違う違う違う…っ違うよ…っ』
『お、前、落ち着けって…何をそんな…何が違うって…』
『違う…っ光平くんは、僕のことが好きじゃない…っ好きじゃ、ない…』
斎藤は泣いていたと思う。
なんで涙を流すのかも、どうしてそんなに怒って否定するのかも、あの時の僕は、ただ光平くんを斎藤が庇っている要素にしか見えなかった。
だけど、今ならきっとわかる。
斎藤は、光平くんが好きで。
その恋は実るものではないと、彼は知っていたのだということを。
