
エスキス アムール
第60章 全てを捨てたって
それ以来、斎藤とは会わなくなった。
というより、避けられるようになった。
あれからもしかしたら、斎藤は光平くんとも会っていないのかもしれない。
きっと斎藤は、僕に光平くんへの気持ちを悟られたと思ったのだろう。
僕は全く気がついていなかったのに。
「……で、でも斎藤と今回のことはまるで関係ない。」
「うん、波留くんとはね。
でも、僕とは関係があるよね。斎藤くん。」
「……」
これから光平くんが何を言い出すのかわからなくて、妙な緊張が走った。
こんなこと、緊張することでもないのに。
そう思うのに、どうしてだろう。
黙って先を促した。
「矢吹さ、」
「……」
「……いつから、なのかな。」
ゆっくりと、言葉を紡ぐ彼が何を言おうとしているのかわからなくて、俯いて下に向けていた視線を光平くんに移した。
僕と目があってようやく口を開く。
「……矢吹が僕に執着し始めたのは。」
