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エスキス アムール

第60章 全てを捨てたって





「無理だよね。
会社も母親も、何よりも波留くんを大事にするなんて、出来ないよね。
そこまでして、欲しいと思えないでしょ?」


光平くんは、決して馬鹿にしているような口調ではなかった。
僕に真剣に確認しているような、口調だ。



僕が何も言わないでいると、光平くんははっきりとこう告げた。


「残念だけど、
そんな人に波留くんは渡せない。」


まあどんな相手でも、渡すつもりはないけどね。と、彼は続けると少しだけ微笑む。


「僕に勝てる人なんて、いないよ。
だって、僕以上に波留くんを欲してる人なんて、絶対にいないんだから。」


自信満々に言い切る彼に、一瞬だけ勝てないと思ってしまった。


だけど、いや、僕だって。
波留くんのことを好きだし、何をしてでも欲しいと思ったはずだ。





でも…、





「僕は波留くんのためなら。
何でもできるよ。
波留くんと一緒にいられるのなら、全てを捨てたっていい。

今まで築いてきた地位も名誉も、財産も全て。

だって、波留くんは、そんなものよりもずっと価値があるんだから。」



今こうして、光平くんを目の前にして。
そんなことを言われたら、また勝ち目なんてありそうになかった。



何も言い返せなくて。
某然とする僕に、くすりと笑って光平くんは言った。






「もう、満足したでしょ?
そろそろ、返して欲しいんだけどね。」















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