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エスキス アムール

第61章 愛しい人会いたい人好きな人







な…………に……





何が起こっているのか全くわからなかった。
わけがわからない。


ここは矢吹の家だ。
だから、矢吹が帰ってくるはず。

鍵を開けるのは矢吹だけのはず。




だけど、鍵を開けて入ってきた人は違う。




「ふふ…酷い、顔だね」



その微笑みは何ヶ月ぶりだろうか。



なんで。
もう会いにくるなって。言ったじゃんか。

せっかく拭った涙は溢れて溢れて、止まらなかった。


落としたしゃもじをゆっくりと優雅に拾い上げる動作をじっと見つめる。

まるで、本人なのかを見定めるかのように。


そうして、拾い上げたその人と、また瞳が合う。



「また、泣いてる」


そう言われて慌てて拭うけど、拭っても拭っても止まりそうにはなかった。


耳に滑り込んでくる心地よい声。
もう会えないと思っていた、その人が目の前にいる。


どうしたらいいの。
ねえ。どうしたらいいの。


ねえ、いいの?
そっちにいっても、いいの…っ?


目で訴えかけると、その人は俺の心を読んでくれた。

わかってくれた。


なんでもわかる。
俺のことをなんでも知ってる。





「おいで」

「……っ」



その一言で、俺は愛して愛してやまないその人の胸に飛び込んだ。






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