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エスキス アムール

第61章 愛しい人会いたい人好きな人





時計を見ると、もう夕飯の時間だ。
そろそろ帰ってくるだろうし、何か作っておかなきゃ。

暗い顔して家に置いてもらっているのに、何もしないなんて申し訳ない。


目を腫らしたままゆっくりと起き上がって、キッチンに向かう。

冷蔵庫を覗くと食材がほとんどなくて。
卵とバターくらいしかなかった。



炊飯器を覗くとご飯。

チャーハンか、オムライスかな。


『オムライスが食べたいな』



木更津が言ったのが随分前のコトに感じる。
オムライスを作らずに、時計を置いて出てきてしまった。

もう、あの時計は処分してしまったのだろうか。


バターと卵を手に取る。



「……。」


でも、やっぱり。無理だ。
バターを冷蔵庫に戻して、塩コショウを取り出す。
炊飯器を開けて、しゃもじを手にとった。


もう一度でいいから、木更津の笑う顔が見たい。





「…グス…ッ」


また涙が出てきて、こぼれ落ちそうになったのを服の裾で拭った時、



ガチャリ


カギが開いて、扉が開く音。

……矢吹だ。


慌てて全ての涙を拭って、しゃもじを持ったまま玄関まで迎えに行って。



おかえり

そう言おうと思って玄関を見ると、



「………っ」




カラン、カラン



信じられない光景に、
思わずしゃもじを落としてしまった。





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