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エスキス アムール

第64章 一方その頃

【矢吹side】





「……なんで、しゃもじ。」




光平くんにスペアキーを貸してあげて、波留くんの元に行かせた。


波留くんのことを諦めたわけではないけど、誰の真似事でもなく自分として彼に向き合ってみようと思ったのだ。


光平くんの存在は僕のなかで特別すぎた。
あんな人と今まで出会ったことがなかったのだ。



迷惑をかけたお詫びに、今回だけは気を遣ったつもりだ。

二人が感動の再会を果たして、僕の家を使うかもしれないから、イチャイチャしている現場に居合わせると言うのも気が引けたし、その日はホテルで泊まった。





のに、光平くんからも波留くんからも一切連絡がない。

二人がもしベッドで眠っていたらどうしようと帰るのを躊躇ったが、朝、決死の思いで帰ったらこの様だ。



玄関を開けると、二人の靴はなく、誰もいないことが分かったのだけれど。


その代わり落ちていたのは、しゃもじだった。

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