
エスキス アムール
第64章 一方その頃
「来なくていいから!!
もう配達で送るから!!」
僕が叫ぶと、反応がない。
ごそごそと音がして、その向こうで会話が聞こえる。
『波留くん…寒くない…?』
『ん…?だいじょうぶ…こーへい、あったかい…から』
『もうちょっとしたら、お風呂に入ろうね』
『ん…』
おーい、僕と電話つながってるの知ってる?
完全に忘れてやがる。
電話、どっかにほっぽったな?
畜生。
イチャイチャしやがって!!
舌打ちをして、電話を切ろうとするとまた、声が聞こえた。
どうせ、いちゃついてんだと思ったけどもう一度携帯を耳に当てる。
「矢吹?」
けれどもその声は意外にも僕の名前を呼んでいて。
なにと、返事をすれば光平くんは言った。
『今の方が、矢吹らしくて素敵だよ』
「……っ」
どき…っ
…………って、
「やっぱりあてつけじゃねーか!!」
電話の向こうで、光平くんがくすくすと笑っている。
ごめんね、と笑う彼の優しい声に、呆れて笑うしかなかった。
一方その頃 終
