《番犬女》は俺のもの
第18章 おちゃらけプリンスの正体
零はゆっくり振り向いた。
その顔はもう笑っていないけれど、怒っているとも困惑しているとも、どちらでもない表情をしていた。
「気づいてるなら、遠慮してくれない?」
ただ鋭い…
そこにいつもの気の抜けたゆるさは感じられなかった。
「それは僕のセリフだよ」
「…!?」
「キミのせいで彼女の完璧にひびが入る。アカネは孤高でこそ《番犬》たる存在になり得るのに」
ハルクが興味をもったのは凰鳴に君臨する番犬。彼が手に入れたいのは完璧なままの彼女だった。
…レイが邪魔だ。
「キミ達の繋がりは誰かが早く壊さないとね」
「──…茜は、わたさないよ」
「どうだか」
ジャージを受け取ろうとしないので
ハルクは彼の胸にそれを押し付けた。
「受けとりなよ。こんなところ誰かに見られたら…あらぬ誤解をまねくでしょ?」
保健室で
手にジャージを持った美男子と
上半身裸の美男子が、二人きり。
確かに誤解をまねく構図だった。
零は無言でそれを取って、着ないうちに保健室から出ていってしまった。
......
「──…レイ、先ずはキミの秘密を暴こうか」
授業開始のチャイムとともに
残ったハルクが誰にも聞こえないほどの小声で呟く──。