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第1章 気付き-REALIZE-

「(ふっ…ふざけんなよっ…!!!)」
まただ。またやりやがった。"激熱"だった。

無情にも揃わなかった液晶に浮かぶ3桁の数字めがけて繰り出しそうな鉄拳を、必死にこらえる。
ー雑誌には信頼度80%って書いてあった…
ーどうすんだよもう金ないぞ…
ーメシでも食った方が…
頭の中をほんの数秒でめまぐるしく駆け巡る、怒りと後悔と反省の感情。

「(こんな気分になるために打ってんじゃねえぞ…)」
礼司は人生で何度目か見当もつかないほどの回数、この気分を味わってきた。

働き盛りの年齢だが、仕事に意欲はない。今だって平日の真っ昼間だ。「ちょっと出てきます。」その一言で会社からは自由に外出できる。俗に言うFランク大学を出て2年間のニート生活を見かねた親戚が入れてくれた会社…何もしなくても給料が変わらない会社…そこに甘えきっていた。
スーツこそ着てはいるが、言い訳程度の名刺とビジネスバッグ、俺は社会人なんだという無意味なプライド以外に、持ち合わせているものなど無かった。

「(まあ、あと10日もすれば給料日…少ない金をやりくりするくらいなら残りの金にすべてを賭けるか…)」
礼司は最後の一万円札を、打っているパチンコ台に入れた。

数分刻みに500円単位で減っていく残金と気持ちの余裕。増えていく焦りと煙草の吸い殻。

礼司がまたネガティブワードを脳内に駆け巡らせ始めた直後、待望の激熱の演出が再度現れた。
「(頼む…頼む…ハズレるくらいなら最初から激熱なんて出てくるんじゃねえよ…頼むぜ…)」
液晶の中で、巨大な化物と戦っている主人公。この台で一番熱いリーチだ。主人公に向かって必死に勝利を願う。敵である化物にすら、どうか負けてくれと願う。

主人公の持つ剣がまさに化物に突き刺さらんとする瞬間、液晶には大きく"ボタンを押せ"と表示された。ボタンを押せば大当たりか否かを告知する、このリーチ最後の演出だ。
「(頼む…俺はお前を信じてるぜ…)」
ファンファーレと共に並ぶ3つの数字に期待して、思わず力を込めてボタンを押す。

プシュンッ…"うわああああああ"
もうほとんど入りきっていた太刀筋をかわされ、反撃を受けて吹き飛ぶ主人公。
「(……!!!!!)」

礼司は言葉も出なかった。涙が出るほど悔しくても、どうすることも出来ない。このリーチがハズレであることは最初から決まっていたのだから。



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