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第1章 気付き-REALIZE-
そんな事、礼司は千も承知だった。当たりもハズレも既に決まっていて、液晶はただそれを告知するだけ。液晶の中で奮闘する主人公をいくら応援したところで、結果は変わらない。何回同じ敵の同じ攻撃に負けても、同じやり方で戦いを挑んでいくーーー
まるで俺じゃねえか、と礼司は思った。同じように打って同じように負けて。くだらねえ。
人は負けたり喪失感にかられた時こそ、うわべだけにせよ冷静になれるものだ。礼司は急に馬鹿馬鹿しくなって、残った2000円分の残高カードを手に取り、席を立った。
カードの精算機へ向かう途中、怒声をあげて台をバンバン叩きながら打つ客やボタンを意味もなく連打しながら打つ客を見て、そんなんで当たるなら俺だってそうするよ、と礼司は小さくつぶやいた。「(お前が何しようがもう台の中では勝負決まってんだよ)」
つい数分前に自分が液晶内の主人公を心から応援していたことなど忘れていた。
「(もういいや、メシでも食おう…ああ、煙草がねぇな、買わなきゃ…)」
遅い昼食をとることを決めた礼司は清算機から吐き出された2枚の千円札を財布にもしまわず、スラックスのポケットにねじこんだ。そのまま出口の自動ドアに向かって歩いていく。
「…イジ、…ジかよ…」
ボヤくような、悔やむような、恨むような、妙な声だった。店の自動ドアから出た瞬間、礼司は頭の後ろの方で確かにそう聞いた。聞き取りきれていないのに確かと言うのも不可解な話だが、礼司は間違いなく自分の後ろ…いやむしろ頭の中からそう聞こえていた。
「(まさか知り合いが!?)」
礼司は慌てて振り向くが、愛想笑いを浮かべた店員が遠くで他の客にお辞儀をしているだけだった。
「(俺も末期だな、そもそもうるさすぎるんだよここは)」
礼司は耳なりのする頭をかきながら、遅すぎる昼食を求めて街を歩きだした。
昼食を済ませた礼司は一旦会社に戻り、キーボードと書類を少しいじる。いかにも外回りのデータを入力しているかの様に見えるが、特に意味も内容もない。この知らず知らずにやってしまうアピールは、もはや礼司の癖と言っていい。証拠に、今日たまたまだが礼司のデスク周りに人はいなかった。他人だけでなく自分もだます、このアピール。小心者の怠け者には必須のテクニックだ。
定時の15分過ぎか―――ちょうどいい。
カタカタやることに満足した礼司は、さっさと帰宅することにした。
まるで俺じゃねえか、と礼司は思った。同じように打って同じように負けて。くだらねえ。
人は負けたり喪失感にかられた時こそ、うわべだけにせよ冷静になれるものだ。礼司は急に馬鹿馬鹿しくなって、残った2000円分の残高カードを手に取り、席を立った。
カードの精算機へ向かう途中、怒声をあげて台をバンバン叩きながら打つ客やボタンを意味もなく連打しながら打つ客を見て、そんなんで当たるなら俺だってそうするよ、と礼司は小さくつぶやいた。「(お前が何しようがもう台の中では勝負決まってんだよ)」
つい数分前に自分が液晶内の主人公を心から応援していたことなど忘れていた。
「(もういいや、メシでも食おう…ああ、煙草がねぇな、買わなきゃ…)」
遅い昼食をとることを決めた礼司は清算機から吐き出された2枚の千円札を財布にもしまわず、スラックスのポケットにねじこんだ。そのまま出口の自動ドアに向かって歩いていく。
「…イジ、…ジかよ…」
ボヤくような、悔やむような、恨むような、妙な声だった。店の自動ドアから出た瞬間、礼司は頭の後ろの方で確かにそう聞いた。聞き取りきれていないのに確かと言うのも不可解な話だが、礼司は間違いなく自分の後ろ…いやむしろ頭の中からそう聞こえていた。
「(まさか知り合いが!?)」
礼司は慌てて振り向くが、愛想笑いを浮かべた店員が遠くで他の客にお辞儀をしているだけだった。
「(俺も末期だな、そもそもうるさすぎるんだよここは)」
礼司は耳なりのする頭をかきながら、遅すぎる昼食を求めて街を歩きだした。
昼食を済ませた礼司は一旦会社に戻り、キーボードと書類を少しいじる。いかにも外回りのデータを入力しているかの様に見えるが、特に意味も内容もない。この知らず知らずにやってしまうアピールは、もはや礼司の癖と言っていい。証拠に、今日たまたまだが礼司のデスク周りに人はいなかった。他人だけでなく自分もだます、このアピール。小心者の怠け者には必須のテクニックだ。
定時の15分過ぎか―――ちょうどいい。
カタカタやることに満足した礼司は、さっさと帰宅することにした。
