はな*つむ
第1章 陽炎
真夏のある日。
蝉が五月蝿く鳴く中、少女は立っていた。
大きな屋敷の中庭で、鯉が泳ぐ池を見下ろす姿には未だ幼さが残る。
深緑の色合いをした黒い髪を朱色の紐でひとつに結わいていた。
肌は雪のように白く、唇は桜の色をしている。
目は丸みの有る形で、暗い灰色をしていた。
少女は遊ぶ鯉の姿に見惚れているらしく、とろんとした顔で池を見つめる。
「氷雨(ひさめ)様」
屋敷の中側から声がして、少女は顔を上げた。
振り向いた先に居たのは一人の若い男性。
背は高く、細いながらも筋肉質な体をしている。
彼は短く紅い髪に、金の光を宿した炎の様な紅い目をしていた。
頭には角が二本。
髪の隙間から僅かに覗いている。
「どうしたのです、紅蓮(こうれん)」
氷雨と呼ばれた少女は紅い髪の男に聞く。
それに紅蓮と呼ばれた男は一度礼をして口を開いた。
「大兄(おおあに)様が呼んでおられます……氷雨様が、十六になられましたので」
紅蓮の言葉に、氷雨の表情が曇る。
「分かりました、参ります」
少し落ち込んだ声色で氷雨は答えた。
紅蓮は眉間にシワを寄せながらも、氷雨にはその顔色を見せまいと深めに頭を下げた。
蝉が五月蝿く鳴く中、少女は立っていた。
大きな屋敷の中庭で、鯉が泳ぐ池を見下ろす姿には未だ幼さが残る。
深緑の色合いをした黒い髪を朱色の紐でひとつに結わいていた。
肌は雪のように白く、唇は桜の色をしている。
目は丸みの有る形で、暗い灰色をしていた。
少女は遊ぶ鯉の姿に見惚れているらしく、とろんとした顔で池を見つめる。
「氷雨(ひさめ)様」
屋敷の中側から声がして、少女は顔を上げた。
振り向いた先に居たのは一人の若い男性。
背は高く、細いながらも筋肉質な体をしている。
彼は短く紅い髪に、金の光を宿した炎の様な紅い目をしていた。
頭には角が二本。
髪の隙間から僅かに覗いている。
「どうしたのです、紅蓮(こうれん)」
氷雨と呼ばれた少女は紅い髪の男に聞く。
それに紅蓮と呼ばれた男は一度礼をして口を開いた。
「大兄(おおあに)様が呼んでおられます……氷雨様が、十六になられましたので」
紅蓮の言葉に、氷雨の表情が曇る。
「分かりました、参ります」
少し落ち込んだ声色で氷雨は答えた。
紅蓮は眉間にシワを寄せながらも、氷雨にはその顔色を見せまいと深めに頭を下げた。