
触れたくない。
第4章 四
私は懇願するように、離れようとした彼の着流しを掴んだ。
「おや、」
「七瀬さん…まだ…まだ欲しいです…」
そう言うと、七瀬さんは珍しく目を見開いた。
「すまないが、今日は少し疲れてるんだ。旅行の疲れがまだとれていないらしい」
そう言われて、ぐっとなるけれど。
でも……、
「私、もう毎日ここに来れないんです、」
そう言うと、七瀬さんは離れようとしたのをやめて、私をそっと起こしてくれた。
「仕事がもっと遅くなるのかい?」
私はふるふると首を横に振った。
少し心配そうな顔を浮べる七瀬さんが、私の頬に手を添える。
我が儘を言って困らせているのはわかる。けれど…。
「もしかして、これかい」
そっと首にかけられたネックレスに手が添えられ、私は小さく頷いた。
二週間、ほとんど会社帰りはカケイと帰るかどこかに出かけていたから、きっとこれからもそうなる。
だから、今日はいっぱい彼を感じて体に刻み込みたいのだ。
