
触れたくない。
第4章 四
やっぱり、余計なことを言ってしまったのか。
欲がでてしまった。好きと言って欲しいなんて思ったのがダメだったんだ。
彼はそういう人間ではないと知っていたのに。
『知ったって意味などないよ』
この言葉が強く突き刺さる。酷く、拒絶された気しかならなかった。
「…はあ……私の馬鹿」
いつまで座り込んでいただろう。
一時間は経ったであろう私はようやく動き出した。
「…帰らなきゃ…」
重い溜息と共に、机の上にある鈍色に輝く指輪のネックレスを手にとって部屋を出た。
瞬間。
「きゃ?!」
突然横から手が伸びてきたかと思うと強く引っ張られ、私の心臓は大きく跳ね上がった。
そして、はっとした時にはお香の香りがいっぱいに広がって、息を飲んだ。
「な、なせさん…、寝たんじゃなかったんですか…?」
「……今日は満月だ」
「?」
彼の顔は見えない。力いっぱい胸に引き寄せられ、私の視界は真っ暗で。
そのかわりに、穏やかな声が鮮明に聞こえる。
「満月は、人を惑わす。
決心をも簡単に揺るがしてしまう」
「…それは、私の告白も月に惑わされただけだって意味ですか?」
なによ、わざわざそんなことを言うために来たの?残念だけど、それはないですよ七瀬さん。
むっとして答えずにいると、七瀬さんが頭上で笑ったのが聞こえた。
「―――本当に、可愛い猫だ。
可愛すぎて、こっちは困っているのに、」
「え…?ンッ…、」
少し揺れる声と甘い言葉に驚いて顔をあげると、息を奪われた。
それはとても短くて。でも、今まで以上にドキドキするキスだった。
