
触れたくない。
第2章 二
「あぁ、今日も暑い。むしむしする」
誰に語りかけたわけでもない言葉は、木々たちだけが聞いている。
歩きづらいこと極まりないこの道も随分慣れたもんだ。
「こんばんは、お嬢さん」
そして、彼がその場所で佇んでいるのも、すでに見慣れたもの。
「こんばんは、七瀬さん」
そう返すと、嬉しそうに口角をあげた七瀬さん。そして、こっちにおいでと言わんばかりに傘をちょいっとあげた。
「むしむしするのは、明日雨が降るからだろうね」
「え、さっきの聞いてたんですか?」
「聞こうとは思ってなかったけれど」
独り言を聞かれていたなんて、少し恥ずかしい。
さっきよりも熱くなった頬を手で仰ぎながら、私はいつものように彼の傘の下に入った。
