
触れたくない。
第2章 二
チラリと横目で隣を見れば、いつ見ても美しい顔立ちをした七瀬さんがおかしそうに笑っている。
相変わらず彩度の低い着流しと、真っ赤な傘を持って。
―――あの日、そのまま介抱してくれた七瀬さんと、なぜか成り行きでこうして会うようになった私。
毎晩毎晩、決まった時間に行けば、必ず同じ場所に彼がいる。
なぜかそれが日常になって、なぜか当たり前になった。
「あ、そういえば。前に七瀬さんが食べたいと言っていた三色団子、買ってきましたよ。お皿にいれるので座っていてください」
そういいながら、いつものようにお皿を取りに行こうとすると、くすり。微笑を浮べる七瀬さん。
なぜ笑われたのかわからなくて彼を見ると、膝を立てて座っている彼の瞳は、無邪気にアーチを描いていた。
「迷い猫が随分慣れたものだ」
「…そ、そりゃあ毎晩来てたら覚えますよ、」
「ああ。そうだったな。迷い猫というより、飼い猫というほうが正しいか」
「もう。だってここ、心地いいんですもん。林の中にこんな家があるなんてわくわくします」
「確かに、存外悪くない」
と。
