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ネムリヒメ.

第25章 Black Emperor.





『真面目な用件を言え…むしろそれ以外喋るな』


案の定、聞こえてきたのは魔王降臨寸前の冷たい声だった


『じゃねぇと、てめぇも…』

「渚くん!!」

『ッ…!?』


聖は、渚が電話の相手を葵だと思って宣告しかけた東京湾行きを呼吸を詰まらせたような声で遮る


「今どこ?」

『っ聖!?』


ロビーの雑踏の声が聞こえる


「ッ…とにかくすぐ部屋に戻って!!」

「は…!?」


渚くんならまだ間に合う

間に合うから…


息を切らせ、切羽詰まった声で、まだ状況を理解していないだろう彼にとにかくそう告げる


「郁くんッ…郁くんにやられた!!

出し抜かれたんだ」


いつも冷静で頭のキレる渚くんでも、さすがにすぐに返事は返ってこなかった

たぶん自分と同じ状況だと思った

今だって、頭のなか半分は真っ暗だ

だけどオレたちは理解したくないことを、理解しなきゃいけない


「詳しい話は後だよ。とにかくすぐに部屋に戻って!!じゃないと、ッ…ちーちゃんが…」

『ッ…!!』


オレも、渚くんも…

葵くんも、雅だって…

全員が郁くんがあの日からちーちゃんを欲しがってたのは知ってた

だから、ふたりが接触したらどうなるかなんて容易く想像がつくことだったのに…


欲しいモノにはどんなにえげつない手だとしても、容赦なく手段を選ばない郁くん


本当はこんなこと誰も考えたくないだろう

だけど…


─ちーちゃんはきっと…

いや、間違いなく郁くんとそこにいるから…




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