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ネムリヒメ.

第25章 Black Emperor.






「もし仮に…雅が先にちーちゃんの居場所に気づいたとしても、今のアイツじゃ郁くんに太刀打ちなんてできない。返り討ちに合うのなんて目に見えてる。

っ…そんなの、葵くんが一番わかるでしょ」

「っ………!!」


聖の声に弾かれる葵


そう…

ハンデを負った今日の雅じゃ郁くんには勝てない

渚くんだっていつ足止めに合うかなんてわかんないから正直宛にならない


葵くんを見捨てて勢い任せで自分が行くか、それとも…

郁くんから課せられた二者択一

ここでオレが焦ったら取り返せるものも取り返せなくなる


だからっ…

ちーちゃんのためにまずオレがすること

それは


「…っ、葵くんしかいないの!!」


─郁くんに確実に勝てる葵くんをここから解放すること…


彼女の、ちーちゃんのためならこのくらいの自己犠牲なんて厭わないから


「早く行って」

「ッ…」

「ちーちゃんを助けて!!」


…自分ではいつも通り生意気に決めたはずだったのに、耳に届いたオレの声は今にも泣き出しそうな声だった

返ってきた葵くんの声も震えてた気がする


…そんな出来事はついさっきのことなのに、なんだか物凄く遠い昔の話のように感じる


「これで二つ目…」


遠い目をした聖の視線の先でテキーラの海に沈む金の向日葵の徽章に続いて、今度は何かの鍵が鎮められた

並々と注がれた透明な液体がその質量に表面張力を失ってグラスから溢れ出す




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