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ネムリヒメ.

第26章 夜明け.





あ…


ドクリと一瞬、心臓が抉られた



「──────!!」




あ…


あぁ…



こういうの走馬灯って言うんだっけ…

まだごく浅い部分にある時のカケラを脳裏に映し出す記憶の回り灯籠

欠けることなく繋ぎ合わされていく記憶のピースの輪郭はぼやけることなく鮮明で、

出来上がったパズルが傷だらけの手首に辿り着くのにそう時間は要さない


"…雅くん、助けて"


どうして自分が眠っていたのかも…


"ずっと隣にいてくれたの?"


彼がアタシを離さないその理由(ワケ)も、今ならばはっきりとちゃんとわかる





─アタシはきのう…





「……雅くんがちゃんと寝かせてくれたんだね」

「…!!」


手首の痕を眺めたまま、アタシはどこかぼんやりとそう口にしていた

乾いた声だった

感情のあるような…ないような…

自分でもよくわからない声

ただ、アタシの口にした言葉に雅くんの肩がピクリと跳ねあがったのがわかる


髪も綺麗で濡れてないし、浄められた肌からはほのかにソープの匂いがする

身を纏うのは柔らかなガウンだ

あんなアタシを、こんな風にしてくれたのは誰でもない"彼"なのだろう

雅くんはアタシを抱き締めたままなにも言わないけれど、そのくらいはわかるんだ

…彼からも同じ匂いがする


だけど、彼の腕のなかでひとつだけないモノに気がついた






─感情が見つからなかった






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