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タイマー

第1章 5月の晴れ

キュッキュッ という音が 体育館に響く
ダムダム という音が床を振動させる

「よ〜い」ピーーーッ!!

夢乃がタイマーのスイッチを入れる。
0′42
という数字がカウントダウンを始め、部員たちはエンドラインからエンドラインまでを走り出した。
「間に合わなければもう一本だぞ!」
コーチの声が部員たちに鞭を打つ。スピードがあがる。
私の仕事は水分補給用の水筒を作って部員に配ること。
4往復した部員たちが壁に手をつきながら息を整える。

私は 水筒を 渡す。一人ひとりに。

「はい。杉野くん」
「あ、ありがとうございます!」

杉野くんは2年生だ。
彼は、周りに比べてあまり上手くない。
ドリブルだってまだおぼつかないし、フリースローもたまにエアーボールしてしまう。ゴール下のシュートでさえ外すことがある。

そんな、はっきり言ってバスケに向いてない彼に、私は恋をした。

いつも一生懸命なところ。あんなに怒られても笑顔でバスケをするところ。仲間のミスは全力で励ますところ。

そんな彼の眩しさに、私は惹かれたの。

「おい杉野!いつまで休んでる!お前はエアーボールしたからもう一本だ!」
「え〜、そりゃないっすよ〜室田さん」

苦笑いで答える彼の横顔を見て、思わず笑った。
「はぁ〜…。あ、先輩。ありがとうございました!もう一本、行ってきます!」
「うん、頑張っておいで」
屈託の無い笑顔で彼はエンドラインに立つ。

タイマーが鳴る。 彼が走る。 ただひとり、全力で。

こんな光景を日常的に見れるのも、あと少し。
総体が始まれば、こういった本格的な練習はあまり出来なくなる。そして、負ければ私達は引退して受験勉強に追われる。

ずっと、見ていたかったな。彼の笑顔を。

私は他の人の水筒を集め、水道に向かう。


練習が終わり、部員が廊下に出て帰る準備をする。
そんななか、杉野くんを呼ぶ声が聞こえる。
声の主は、杉野くんの彼女らしい。

支度が終わった彼は、彼女と並んで歩いていく。

いつも私が見ている屈託の無い笑顔とは違う、笑顔で。


私は、彼に恋をしている。叶わないことは分かってる。でも、

好きなんだ

休日だというのに、チャイムが鳴った。
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