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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第2章 友達でいたかった


ヒロは僕を『渡辺』でも、前の名字でもなく
『塔也』と呼んだ。
それからずっと、卒業するまで西北ボーイズの全員がそう呼んだ。中学に入ってシニアリーグに移っても、それは変わらなかった。
ひさしぶりに、心から笑えた日だった。
あれから7年が過ぎようとしている。
あの日と同じ、春が来て、僕は高校2年になった。
僕は、ヒロが言った通りピッチャーとして市高の野球部に入った。レギュラーとして初めての選抜出場を果たそうとしている。念願の甲子園。
エースを背負って、ボールを投げる。
でも、その球を受け止めるのは、ヒロではない。僕らは5年間続いたバッテリーをこの市高で解消させられていた。

ランニングが終わり、キャプテンの寺嶋先輩が
アメリカンノック準備ーと叫んだ。
練習メニューの中でもキツさは1、2を争う。
文句を言いながらも準備にとりかかった、その時だった。
監督がいつもより早くグラウンドに来た。部長となぜか校長も後ろについている。

「なあ、何かヤバイ感じ…?」

広明が言った。

「集合!」

キャプテンの声に手を止めた部員達は、素早くブルペンに集まった。ただならぬ雰囲気に、ざわつきながらも帽子を脱いで誰かが何か発するのを待った。
監督は険しい表情で、結果だけを伝えた。

「今日から対外試合6ヶ月禁止の処分を受けた。よって、選抜出場は辞退、夏の地区大会と秋期大会も出場できなくなった。以上」

全員、凍りついた。
何があったのか、説明はなかった。監督はキャプテンである寺嶋先輩を呼び、何か言っただけでグラウンドを後にした。

「みんな、そのまま聞いて。知っているやつもいるだろうけど…」

寺嶋先輩の目はすでに赤くなっていた。こういう時、広明は真っ先に食ってかかるだろうから、僕は先に小声で釘を刺した。

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