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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第2章 友達でいたかった

この身に何が起こっても、夜は明け朝がやってくる。
僕ひとりの経験値が上がったところで、僕以外の何かに変化が起こるわけではない。間違い探しのような、昨日と今日なのに、僕は広明を直視できなかった。

「っす、塔也。…なに?寝不足か?」

広明は僕の状態を瞬時に察知し、ベンチに座ってスパイクを履く僕の隣に腰を下ろした。

「まあ…そんなとこ」
「珍しいな。勉強?」
「…みたいなもん」
「あんま、根つめんなよ」

3年生が引退して、広明はキャプテンに選ばれた。去年は、落ち込んだり精神的に不安定な時期もあったけれど、いまは誰が見ても頼れるキャプテンになりつつある。
午前中から容赦なくグラウンドに照りつける太陽は、いやでも市高野球部員のやる気を削いでいく。広明はそれを丁寧に一人ずつ声を掛けてほぐしていく。
来年の今頃は、絶対に甲子園にいよう、と。
ランニング、と言う広明の声がグラウンドに響き渡る。また1日が始まる。

「…住友となんかあった?」

こいつには、何かのセンサーでもついているのだろうか。それとも僕の顔に書いているのだろうか。

「かなわねえよな、キャプテンには」
「どういうことだよ」
「そのうち話すよ」

そんな短いやり取りをして、僕は列の最後尾を走る。走りながら、 少し前まで奈緒子がいたベンチに目を向けたりする。

「塔也ー!無理すんなー」

遠くから広明の声が届く。チームの空気を乱したくはなかった。
「悪い、帰る!」

そう叫んで、列を離れて部室の方へ向かった。

…かっこ悪。あれくらいで。

そう。あれくらい。
全部見透かされてたこと。
それでも、奈緒子を抱いたこと。
ずっと頭にあったのは、千咲だったこと。

好きだ。

ふと目に入ったのは、マネージャーの誰かが部室に飾った、ひまわりだった。


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