仮想現実
第4章 。。。。
頬を撫でる風は優しく、桜の花びらが静かに宙を舞う。それが時間の経過と共に、雨上がりの濡れたアスファルトを濃い桜色に染めた。
そこより天に近い場所に、少女が一人。
少女の目は何処か虚ろでありながら、見えない何かを凝視しているようにも取れた。そして、さきほどから繰り返し何か呟いているようだが、私の耳には届かない。少女の足は出口を求めるかのように、確実に前進しつつあるようだ。
少女は孤独だった。いや。この世に少女と言う人間は、存在すらしなかったのかも知れない。
少女の生きる世界でその声は、群衆の雑音に掻き消され、更に言えば少女を少女として視界に入れるものは皆無に等しかった。最早、少女の存在はゼロに近かいと言えよう。
屋上の先端に辿り着いた少女は、憎しみにも似た不敵な笑みを浮かべ、静かに瞼を閉じる。まだあどけないその表情に、肌に馴染みきれない制服が眩しくも映っていた。
春風の悪戯なのだろうか。刹那の突風が少女の躰に纏わりつき、そして少女のバランスを奪う。
………ドスッ。
―――少女の声は、誰かに届く事ができたのだろうか?
そして誰かの見えない手により、今、少女の存在は完全にゼロとなった。