僕が僕を殺した理由
第2章 。
それに話題をみつけたのだろう。イツキがすかさず口を開いく。
「何かあるんですか?」
「あ、俺、結婚するんだわ。ごめんね、イツキちゃんの気持ちに応えられなくて」
面白い事を言ってやったと思ったのだろう。タケはその顔に得意げな笑みを浮かべる。イツキは急に込み上げる笑いにプッと噴き出すと、「ほんと、残念ですよー」と話を合わせた。そして、そこにいい頃合いだと感じたのか「頂きますね」と新しいグラスを手にする。イツキはどちらかと言えば弱い方なのか、ほんのりと水を染める程度の水割りを作った。
「ではでは、おめでとうございまーす」
と、決して華やかとはいえないが魅力的な満面の笑顔を作ると、タケのグラスに自分のグラスを軽く打ちつけた。
その場はタケの結婚の話に花が咲き、それなりに盛り上がりを見せた。
と言っても、それはタケとイツキの間だけに言える事でしかなく、僕は一人、孤立していた。イツキはことあるごとに僕に笑い掛けては来たが、その話題に乗る気にもなれない僕は、話を合わせるようにその場しのぎの作り笑いでその場をやり過ごした。
タケの方はその話題に、気を良くしたのだろう。酒も手伝ってか、周りが見えなくなっているようだ。やはり来なければよかった、とタケの誘いを断り切れなかった自分に後悔した。
本来なら、優香と結婚するのは僕の筈だった。
それは僕だけではなく、優香もそうであると信じて疑わずにいた。それが、僕の犯してしまった最大の誤算だったのだろう。
イツキがしつこいと言っていた男は、チビチビと生ビールを口に含みながら、時折うらめしそうな視線をこちらに向けている。自分の前では決して見る事のできないイツキの笑顔に、嫉妬でもしているのだろう。落ち着きがなく、常に指先がカウンターを叩いている。
それはまるで、あの日以来の僕の姿を映し出しているようで、それが僕に不快感を与えていく。だからと言って帰るタイミングも掴めないまま、僕は数杯目の水割りを催促した。
「朔哉、遠慮しないで飲めよ。今日は俺のおごりだから」
「当たり前だ」
元々アルコールに弱いタケは既に酔いが回っているらしく、少々ろれつが回らなくなっている。僕は得られる筈もない酔いを求め、酒を仰いだ。