僕が僕を殺した理由
第2章 。
その文字を僕の目が捉えた瞬間、先ほどから僕に纏わりつく所在の判らぬ痛みがいっそう僕を悩まし始めた。軽い吐き気さえ覚え、それまでキーボード上を好き勝手に動いていたはずの手が何かに怯えるかのように震えだした。
震える左手で右手の震えを抑えつけるように強く握りしめる。が、それは悪足掻きでしかないようだ。何の意味も持たなかった。
「‥‥煩い‼︎」
時間を追うごとに湧き上がる苛立ちに、荒々しくそう叫ぶ。無機質な空間に放たれた僕の言葉は、壁に反射し不気味に反響してこの耳に返ってくる。八つ当たりに煙草の先端を灰皿に擦り付け、その焔を消した。僕は大きく一つ息を吸ったところで呼吸を止めると、乱暴にキーボードを叩いた。
朔>ああ、勿論だよ。
能面のような僕の言葉の後に、少しの間があく。画面の向こうにいるノラを想像するのは容易い事だった。きっと、安堵と自己満足。そんな言葉がよく似合う表情をしているに違いない。
そこから程なくして、ノラからの返事は返ってきた。
ノラ>よかった‥‥。
予想通りの展開に、僕はチッと舌を鳴らす。飽きを感じ始めたノラとのやり取りに、軽くなった缶ビールを手に取ると、それを一気に飲み干した。そして面白味に欠けるノラの言葉に付き合うために、火を点けるつもりもない煙草を口にくわえた。
たぶんノラも僕と同じで、誰かを慰めるつもりなど更々ないのだろう。己の本来の姿に怯えながら他人を僅かな高さから見下ろし、自分の存在価値を確認したいだけ。それをわかっているからこそ、いつもと違うこの位置に居心地の悪さを感じる。
僕は適当な相づちと嘘で、その場を早々と切り上げた。